第一話
 「寄り道から始まるロマンス」

「わぁ、ここに来るの久しぶりかも」

ガラガラガラ。

「あ、桜!・・・きれー!!」

ガラッ。

「よし、ちょっと寄り道しちゃおーっと」






みなさん、はじめまして。
私、若月もえ(わかつき もえ)です☆
家の事情&高校入学ということで、今まで住んでいた街を離れ、一人でおじいちゃんの住むこの街にやってきた・・・のはいいんだけど、何だか慣れないせいか道に迷っちゃったみたいで・・・。

「迷いついで 迷いついでっと♪」

私は桜に誘われるがままに小道に入っていった。
道の両脇の桜が、見上げる空を淡いピンクに彩る。
ちょっとキャリーバッグが邪魔だ けど、ま、別に問題じゃないしね。
それよりも今はこのステキな世界に浸っていたい。

小道を進むと小さな野原に出た。そこにもやっぱり桜の木があって。


「うわぁ、すごい・・・」

花びらがふわりと舞い散る中、木に背を預けている誰かがいるのに気づく。
私はゆっくりとその誰かさんに近づいた。

「・・・・・・」

そこには穏やかに眠っている男の子がいた。





心地よい春の気候と桜が創り出す幻想的な世界のせいだろうか。
男の子か桜か、どちらに 対してなのかわからないけど、私は思わず口にした。

「きれい・・・」

私の周りだけ時が止まった気さえした。
おとぎ話に出てきそうなくらいきれいな男の子、桜、まるで異世界。
何とも言えない感覚に襲 われる。全身から力が抜けていく。
私は、私は――――


「おい、どこ触ってんだよ」
  「は?」

謎の美男子の声でふと我に返る。
見ると目の前には声の主・・・が、こちらを見つめている(ってゆーか睨んでる)。
私はポカーンとしてしまう。

「え、あの、どこって・・・ぇぁあへっ?!」

  ―――顔です(正しくはあなた様のその端正なお顔の向かって右頬です)。

「あ、ごめんなさっ、いや、これは別に!!」

違うの違うのーっ!!ただちょっときれいだなぁって思ってふと気が付いたら私ったらーーーーっ!!!
あの数秒間で何が起きたっていうのぉー?!!

「お前・・・」
「きゃあ!」

私は事が起こる前にその場を去った。
今来た道をものすごいスピードで駆け抜ける。
バッグ、結構荷物入ってるはずなのに。信じられない速さ。まさにマッハの世界。


私はそのまま、目的地へ向かった。
さっきまで思い出せなかった道順で。




「骨董品店”モンパルシェ”」。
オシャレで落ち着いた感じのレトロな店。
定休日は特に決まってなく、何か用があればその日が定休日。
私のおじいちゃんの家でもある。

「おじいちゃん!」

勢いよく店の扉を開けると、中でガラス細工の手入れをしていたおじいちゃんが笑顔で出迎えてくれた。

「お帰りなさい、もえちゃん。待ってましたよ」
「うん・・・ただいま!」

モンパルシェ独特の雰囲気のおかげで、少しは冷静になれた。
ここはいつでも時が静かに流れている。穏やかに、そして上品に。

「それよりどうしたんですか、すごく慌てて」
「あぁーえっと、その、何ていうか、早くおじいちゃんに会いたくて!」
「それはそれは。とても光栄です」
「えへへ」

おじいちゃんといると本当に優しい気持ちになれる。
まるでさっきの事が夢だったみたい。さっきの―――


「桜・・・男の子・・・」

   ドクン。

「・・・っ?!」

何かが熱く脈打つ。え、私、どうした―――

   ドクン。

ちょっと待って、これって何

   ドクン。

ある歌以外、音が消えた。
私は気が狂ったように階段を駆け上り、ある部屋に入った。
店に陳列されていない物がしまってある部屋。
小さい頃、よく遊んだ部屋。頭がくらくらし、体が熱い。床に思わず倒れこむ。

「何なのっ・・・!」

あの歌だ。あの歌が頭から離れない。
昔からよく知っている、妙に忘れられない、あの歌。
この部屋に入ってそれがいっそう強さを増した。

「苦し・・・いっ」

身を焦がすような恋 覚えたら

「・・・っ(頭割れそう!)」

古の箱 そっと開けるの

「はっ・・・こって」

二人の守神 舞い降りる時

「これを・・・?(体が吸い寄せられてる?)」

七色に輝く物語 始まる

「きゃあっ・・・」

眩しいほどの光と甘ったるくエキゾチックな匂いに包まれ、私は気を失った。
どれくらい経っただろう。知らない人たちの話し声が意 識を撫でて目が覚めた。

   「んーっ、やっぱり外はいいわね」
「久々の解禁だね・・・君がやってくれたの?」

あの歌も苦しさも消えた・・・けど、その代わりに変なのが出てきちゃった。
何、これ。何かのイリュージョン?

「わぁ!見てレン、このカエルの置物かわいらしわv」
「オキョウ、それは後で。今は・・・」
「あら、モナコ・・・?」

巻毛美人が私を見て呟いた。
”モナコ”って、一体・・・。私はなんとか声を絞り出す。

「あ、あのっ、あなた達は・・・」
「私達のことは置いといて。あなた、お名前は?」
「え?私は・・・もえ、若月もえ」

巻毛美人に圧倒されてしまい、思わず名乗ってしまった。
すると変な二人組が目の前にひざまづき、私を見上げる。

「はじめてお目にかかります。プリンセス・もえ。私は茶柱 レント」
「私は銀鱈 キョーコと申します。プリンセス・もえ」

そう言うと二人は私の手を取りキスをした。
うわぁ、右手にイケメン、左手に美人・・・両手に花ってこういうことか。・・・ってゆーかプリンセスって何?

「あのー、私は別にプリンセスなんかじゃ・・・」
「もえちゃん、どうしましたか?」
「お、おじいちゃん・・・!!」

すごいタイミングの悪さでおじいちゃんが部屋に入ってきた。
やばい、どうしよう!なんて説明すればいいの、この人たち!!

「おじいちゃん、この人たちはね」
「「もえちゃんのお友達でぇす♪」」
「え?!!」
「はじめまして、茶柱 レントです」
「私は銀鱈 キョーコですわv」

は?!何この人たち!!何を勝手に友達っていうキャラ設定にしてるの!!!

「そうでしたか。じゃあ今お茶を持って来ますね」




自分の部屋に知らない人がいるって、変な感じ。
しかもなんでこんな隅っこでちんまりとしてるんだろう、私。・・・自分の部屋なのに。

「このくまちゃん、なんて愛らしいの!」
「へぇ、今時の女の子ってこういう雑誌を読むんだ」
「あ、あのぉ・・・あんまり見ないで。恥ずかしいから」

人の部屋を物色すること15分。やっと二人は用意したクッションに落ち着いてくれた。

「えっと・・・ミルクか砂糖入れます?」

”僕はミルクを”、”私はお砂糖を”と言ったので、それぞれ渡す。
落ち着いた途端、急に静かになった。そのかわり、すごいこっち見てる、ってゆーか見つめてる。
瞳に☆入れてキラキラさせている。・・・居心地悪っ。

「あのぉ、私の顔に何か付いてます?」
「いいえ、何も付いてないわ」

美男美女にこうも見つめられると、場がもたない。私はさり気なく目を逸らした。

「ねぇ、もえは魔法って信じる?」
「は?」
ついさっきまではそんなもの信じてなかった。けど、事実オルゴールからこの人たちが出てきたってことは、信じざるを得ない。

「信じてないわけじゃない・・・けど、信じ難いというか」

あれ、何かまずいこと言ったかな。
また静かになっちゃった。それよりさきから一番気になってること、聞いてみようかな・・・。

「あの、あなた達は一体何者なんですか?」

紅茶を飲む二人の動きが止まり、ゆっくりとカップを下ろす。二人は目配せをして軽く頷いた。

「私達は古よりこのオルゴールに宿る魅惑のガーディアン、銀鱈 キョーコ。人呼んでギンダラのオキョウ!」
「同じく茶柱 レント。人呼んでチャバシラがレン!」

意味もなく二人は立ち上がり、決めポーズ。
そして流し目でこちらに視線を送っている。
普通だったら”うざっ”の一言で終わるだろう。しかしやっているのが美男美女だから厄介だ。これはこれで絵になってしまう。

「ガーディアン?」
「僕らを呼び出した瞬間から、君は僕らのプリンセスなんだ」
「ちょっと待って!私、二人を呼び出した覚えはないよ」

思わずこちらも立ち上がってしまった。”異議あり!”みたいな感じ。
「確かに。あなた自身は呼んでないかもしれない。けど、あなたの”恋する心”が私達を呼び覚ましたのよ」
「恋?!私、恋なんて・・・」

その時、桜の木の下で眠る男の子が脳裏に浮かんだ。
あの瞬間、生まれて初めて男の子をキレイだと思った。私、あの人に恋してるの・・・?

「あれは・・・」
「彼と出会った時、何か感じなかったかしら?」

   ドクン。

「彼を思い出した時、どんな感じになった?」

   ドクン。

「歌が聞こえてきたはずよ・・・」
「その歌は・・・これと同じもの」


  身を焦がす恋 覚えたら

     古の箱 そっと開けるの

     二人の守神 舞い降りる時

     七色に輝く物語 始まる

二人はゆっくりとオルゴールのふたを閉めた。
さっき頭の中で流れていたものと同じだった。これは偶然なの?それとも・・・。

「わからないことだらけって顔だね。まぁ、信じろってのが無理なのかな」
「今は信じてもらえなくても、いつかは・・・必ず、信じてもらえるはず」

なぜかその言葉には切なさを感じるものがあった。
信じて・・・あげたい。でも、今は何がなんだか・・・。
もやもやと考えていたら、急に二人が私に近づき、そっと抱きしめた。

「え?!あの、ちょっ」
「さあ、もう一度あの人を思い出してみて」
「あの人って・・・」
「君が心を奪われた人」
「あ・・・」

また胸が熱くなった。胸の奥がきゅんってなる。
あの男の子を思い出したせいなのか、それとも美男美女に密着されているせいなのか。
もうわけがわからない。

「何か、耳が熱い」
「それもそのはず♪見てごらんなさい」

私は美女から鏡を受け取り、自分の耳を見てみた。
異変を感じた右耳の耳たぶに何やらタトゥーのようなあざができている。

「何、これ」
「それは僕らガーディアンとプリンセスを繋ぐもの。チームマークみたいなものかな」
「チームマーク?!」

見ると美男は左首筋に、美女は胸元に私と同じハートマークがあった。
チームって・・・一体何するつもりなの?

「ではトゥインクル(チームマーク)も出たところで、誓いの言葉を言いましょ」
「そうだね。これ言わないと何も始まらないし」

そう言うと二人はまた目の前にひざまづいた。胸に手を当て、誓いの言葉を口にする。

「プリンセス・もえ。いかなるものからもあなたを守り」
「どんな時も深い愛であなたを包み」
「「命をかけてあなたに仕え、共にあることを」」
―――誓います。

部屋が淡い光に包まれる。ほわぁんとした不思議な空間。
ずっとここにいたいとさえ思った。しかしその空間はドアのノックと共に崩れ去った。

「もえちゃん、学校から入学式の案内が届いてますよ」
「入学式・・・あ!そっか、明日だっけ」

私はドアを開け、おじいちゃんから案内状を受取った。
そうだよね、私は明日から新しい学校に通うためにここへ来たんだもん。色々ありすぎてすっかり忘れてた。

「にゅうがくしきって何だい?」
「うん、私明日から高校生になるんだけど、その最初のイベントだよ」
「まぁ!おもしろそうね。ぜひ行ってみたいわ」
「え?」

やばい。
何か嫌な方向に話が流れてる気がする。
ここはひとつ、丁寧にかつはっきりと断らないと!

「でも、二人は新入生じゃないから出席するのは無理じゃないかな」
「はぁ・・・ガーディアンなのに主人の側にいられないなんて。なんて不甲斐ないガーディアンなんだろう」
「そうねぇ・・・もし主人の身にもしものことがあったら・・・あぁ、私耐えられないわ!」
「いや、二人が思ってるほど入学式って危ないもんじゃないから」
「神様、こんな二人をどうかお許し下さい。さぁレン、オルゴールの中に帰りましょ」
「そうだね、もうここにいても役目は果たせないのなら、いっそ・・・」

二人はオルゴールを手に取り、ふたを開け・・・ようとしたが少しためらってこちらを振り返る。
切ない眼差しがやたらと痛い。引き止めてほしい丸出しだ。

「「はぁーーーーーっ・・・」」

ガーディアンだか何だか知らないけど、学校に得体の知れないものを持ち込むのは規則違反ってもの。
厄介事でも起こされたらたまったもんじゃない。
悪いけど二人はお留守番かな。うん、本当に残・・・

「だったら一緒に行きませんか?」
「え」
「学生としては無理ですが、保護者としてなら大丈夫ですよ」
「おじいちゃん?!」

次の瞬間、今まで負のオーラ全開だった二人が一気に輝き始めた。

「「本当ですか?!」」
「はい。二人のもえちゃんを想う気持ち、しっかりと受け止めましたよ」
「「はい!もえちゃん大好きです!!そしておじいちゃんも大好きです!!」」
「そ、そんなぁ」

違う。絶対違う。こいつら私じゃなくて”入学式”が目当てだ。
くっ・・・ガーディアンのくせになんて図々しいやつらだ。

   眩しいほどの笑顔が視界に入る。二人は私の手を取りこう言った。

「「これからよろしくね、もえv」」

 ―――あぁ、もう最悪な新学期になりそう。