第二話
 「どきどき☆入学式」



 ふんわりとした春の日。入学式にはもってこい日和。そう、今日は入学式!時間に余裕を持って行動したいところだけど・・・


 「えー、写真なんて後でいいじゃん!それより早く行かないと間に合わ・・・」
 「大丈夫♪写真一枚くらい撮る時間はあるわv」
 「普通こういうのって学校の正門前で撮るものでしょ?!」
 「あ、そこのお嬢さん。すみませんがシャッター押してもらえますか?」
 「おじいちゃん!!」
 「ほらもえちゃん、笑って」
 「―――もう!」

 パシャリ。









 この度、晴れて私が通うことになったのは七星(ななほし)学園。広い学内とオシャレな雰囲気で有名な高校である。進学校というよりはのびのびとした感じで、制服も上品でかわいい。男女問わず人気のある学校だ。私も憧れの学校に入学できてホントよかった。この制服を身にまとって乙女の花園のようなこの校内を歩けるのだから。うーん受験勉強、頑張ったかいがあったかな。


「あった!大講堂」


 私たちは式が行われる大講堂にたどり着いた。入口の受付で受験番号と名前を言うと、愛想のいい女性が自分のクラスを教えてくれた。


「若月もえさんは5組です。5組の座席は中央通路の左側になります」


 女性の指示通りに5組の座席を目指す。ここでおじいちゃんたちとは一旦お別れになっちゃうな。保護者席は生徒席の後ろだもんね。


「じゃあ、私は5組のところへ行くから。後はおじいちゃんの・・・」
「きゃあっ、見て見て!あの人ちょーかっこいいーv」
「あのコの保護者かな?やーんマジうらやましいぃーv」
「どうも、こんにちは♪」(爽やかスマイル☆)
「「きゃああーーーっvvv」」
「あ、あのぉ・・・」


 レンを見るや否や、女子生徒たちが黄色い声を上げだした。まるで私は人気アイドルのマネージャーになった気分。ま、いっか。レンは
とりあえず置いといてオキョウに・・・


「おい見ろよ!あそこにすげぇー美人がいるぞ」
「うぉっ・・・すっげーナイススタイルじゃん!!」
「あらどうも、ごきげんようv」(キュートウインクv)
「「やば・・・マジいいvvv」」
「・・・・・・」




 こうなることは予想できたはずだった。なんたって美男美女がいるのだから、注目されて当たり前・・・なんだけど!!


「おじいちゃん・・・!」
「はいはい。オキョウさんとレンくん、もえちゃんがお二人にお話があるそうですよ?」


 いつの間にかできたギャラリーから離れ、二人は私のところに駆け寄ってきた。目をキラキラさせて私を見つめ、言葉を待つ。


「いい?ちゃんとおじいちゃんのいうこと聞いて、大人しくしててよね」
「「はぁーい☆」」
「絶対、目立つようなことはしちゃダメだからね!・・・ただでさえ目立ってるんだから」
「ひょっとしてもえ、焼きもちやいてるのかい?」
「まぁそうなの?うふふ、かーわいいわv」
「もう!そんなんじゃないってば!!とにかく、おじいちゃんのいうことちゃんと聞いてよね?!」
「大丈夫ですよもえちゃん。後のことは任せて、どうぞ安心して式に参加して下さい」


 まだまだ不安要素はたくさんあったけど、私はおじいちゃんを信じて5組の座席へと向かった。開式時間が近いせいか、多くの生徒が座席に着き始める。当たり前だが、知ってる人なんか一人もいなかった。知ってる人なんか・・・


「あっ・・・」


 夢だろうか、それとも見間違いだろうか。一瞬だけ例の男の子が視界に入った気がした。しかし目で追おうとした先を他の生徒にふさがれてしまった。


「・・・気のせいだよね」


 まさかここにいるわけがない。私はちょっぴりドキドキした胸に手を当て、深呼吸して席に着いた。









 式の間中、私は例の男の子のことを考えていた。あの日、偶然にも出会ってしまった、キレイな男の子。私は彼がどこの誰なのかも知らない。どんな性格で、何が好きで何が嫌いなのかも。それなのに恋に落ちるなんて、まったくおかしな話に聞こえる。オキョウとレンは一応私の恋を応援してくれるみたいだけど、それもまたおかしな話に思えてくる。あー、考えれば考えるほどわからなくなる!
 ぐるぐると混乱する私をよそに式は着々と進み、クラスごとに新入生の名前をざっと担任が読み上げていた。司会の先生のアナウンスが
流れた。


「つづきまして、5組。担任は白砂 美和先生です」


 5組の生徒の名前が読み上げられていく。私はぼんやりしながら聞いていた。


「・・・・・・さん、若月もえさん」


 あ、ちゃんと私の名前も呼ばれた。よかっ・・・


 パァン☆


「?!!」
「あ・・・オキョウ」
「意外とあれだったわね・・・」


 地味にはじけたクラッカー音の後に、二人のぼそぼそ会話が聞こえた。


 ―――あぁーいぃーつぅーらぁー!!!!!(闇オーラ始動)


 あれほど”目立つな!”って言ったじゃーん!!それに”あ・・・”って微妙だよ”あ・・・”って!!しかも”意外とあれだったわね・・・”って、”あれ”ってなんだよ!!
 二人のありがためいわくサプライズのせいでしばらく会場がざわついた。みんなが口々に”若月 もえ”のあらぬ噂をし始める。私は絶対に自分とわからないように、みんなと同じくまわりをきょろきょろしてカモフラージュした。


「えー・・・みなさん、どうか静粛に。それでは6組に入りたいと思います」


 なんとか場は持ち直されたが、それでも腹の虫は納まらない。ホントは今すぐあの二人のところへ行ってお仕置きしてやりたいところだ。


「もー・・・信じらんない」


 私はうんざりした気分で、大講堂の高い天井を見上げた。









「ここがみなさんの教室となるF1−5です」


 在校生に誘導され、大講堂を後にした生徒たちは各々の教室へと案内された。


「では担任の先生が来るまで、教室で待機してて下さい。なにかわからないことがあれば・・・」


 廊下で在校生が指示を出す間も、私の頭の中は厄介なガーディアンのことでいっぱいだった。私がこうしている間にも、問題を起こしてないといいけど。


「どうかしたの?」


 あまりにも考え込みすぎたせいで、気が付くと他の生徒たちはもう教室に入り、私と誘導した在校生だけがそこにいた。


「あ、いえ、大丈夫です」
「そう、ならいいわ。じゃああなたも中に入って」


 さらりとしたストレートの髪と、きりりとしたメガネが印象的な女学生だ。きっと生徒会か何かの役員なのだろう。彼女に促され私は中に入った。教室では生徒たちが好き勝手に座っていた。グループで固まっている者もいれば、一人で本を読んでいる者もいる。中学の時とは違い、机・椅子は横に長く、4人掛けか基本らしい。けれど3人で座ったほうがゆったりと使えそうに見える。さて、どこに座ろうかな。


「ねぇ、こっち来ない?」
「え」


 後方から明るい声が聞こえた。振り向くと女の子が二人、私のほうを見てにこにこしている。せっかくなので私は二人のところへ行ってみた。


「どうもありがとう!えーっと・・・」
「あたしは中谷 夕菜(なかたに ゆな)」
「私は古西 糖子(こにし とうこ)です」


 えーっと、ショートよりもやや長めでハキハキした感じのコが夕菜ちゃん。お人形さんにたいなふわっとした感じのコが糖子ちゃんか♪


「私は若月 もえ。よろしくね☆」
「若月 もえって、あなたのことだったんだね」
「え、あ、う・・・その、あれは・・・」


 あぁそうだった!私、今は世界一名前をいいたくない状況だった。どっかの二人組みのせいで!!


「あの人たちはお兄さんとお姉さんなの?」
「うーんと・・・それはぁ・・・」


 夕菜と糖子が順番に質問してきた。うぅ、どれも非常に答えづらいものばかりだよ。どうしよう、なんとか上手く説明しないと!
 その時、タイミングよく教室のドアが開いて女の人が入ってきた。きっと担任の先生だろう。よかった〜。


「みなさんはじめまして。今日から1−5を担当する白砂 美和(しらす みわ)です」


 美和先生はクラスのみんなを見ながら微笑んだ。さっきの役員生徒の人と似た感じがするけど、先生のほうが優しさはあるような気がした。えへへ、なんか美人先生って嬉しいなvv


「それでは名前の確認をします。呼ばれたら返事をして、軽く自己紹介をして下さい」


 入学式の時のようにまた名前が呼ばれていった。みんな思い思いの自己紹介をしていく。先生、なんだか嬉しそう。


「古西 糖子さん」
「はい。はじめまして、古西 糖子です。趣味はお菓子作りとガーデニングです。よろしくお願いします」


 うわぁ、糖子ちゃんお菓子作れるんだ!女の子だな〜。それに育ちが良さそうだし・・・どっかのお嬢様かな?


「中谷 夕菜さん」
「はい!中谷 夕菜です。走ることが大好きで、小・中と陸上やってました。よろしくお願いします」


 へぇ、夕菜ちゃんは走るのが好きなんだ♪きっと運動神経バツグンなんだろうなぁ〜。かっこいい!
 私は何人ものクラスメイトの自己紹介をぼんやりと聞いていた。私は”若月”だから最後のほうだ。


「藤代 綾人くん」


 美和先生がある男の子の名前を呼んだ。呼ばれた本人が「はい」と返事をしてゆっくり立ち上がる。私の斜め前、少し離れたところで。


「藤代 綾人(ふじしろ あやと)です。趣味は昼寝。よろしくお願いします」
「!!」


 なんで、なんで今まで気付かなかったんだろう。同じ教室にいたなんて・・・!あの日、偶然出会ってしまった人・・・桜の木の下にいた美少年。


 ドクン。


 藤代 綾人くん・・・


 ドクン。


 同じクラス・・・


 ドクン。


 私が、恋してる人・・・


 右耳にあるトゥインクルが急に熱くなるのがわかった。言葉が出てこない。これって、これってもしかして・・・


 ―――運命


 気が付くともう”や”行まで進んでいた。危ない、ずっと見とれてしまっていた。もうすぐ私の番だ、向こうは私のこと覚えてるのかな?


「それでは最後・・・」


 よぉし!しっかりアピールしなきゃ!!


「若月 も――」
「「もえーーーっ☆」」
「?!!!」


先生が私の名前を呼びかけたまさにその時、聞き覚えのある二人の声が割って入った。しかも図々しいことに割って入ってきたのは声だけではない。その本体も教室に堂々と入ってきた。


「あなたたちは・・・?」
「はじめまして♪担任の先生ですね。これからもえがお世話になります」(イケメンスマイル☆)
「はぁ・・・」


 突然のスペシャルゲストにクラス中が騒ぎ出した。さり気なくみんなに笑顔で手を振る二人。あんたらアイドルか?!もちろん私にも手を振る。しかも頼んでもいないのにウインクと投げキッス付き。夕菜と糖子が私を興味津々に見つめる。


「えー・・・あの人たちはね」
「先生、私たちはもえのほ、ほ、えーっと・・・ほー」
「(本当は保護者なんて認めたくないけど)二人は私の保護・・・」
「捕虜!そう私たちはもえの捕虜ですわv」


 ―――弁解の余地なし!!!!!


 オキョウの「捕虜発言」により、ざわつき3割り増し。いくらなんでも捕虜はないでしょ捕虜は!今どき信じらんないってゆーか、いや、みんなそんな目で私を見ないでぇーーーっ。
 私はいてもたってもいられなくなり、先生の元へ駆け寄り「ちょっと時間ください」と言い残し、二人を教室の外へと引っ張り出した。以下は私たちのやり取りを簡素化したものである。


 ・なんでクラスに来たのか→もえに会いたかったから
  却下。

 ・おじいちゃんを一人にしてこないで!→だっておじいちゃんがね・・・
  問答無用。

 ・あんだけ目立つなって言ったでしょ?!→大丈夫♪そんなに目立ってないよ!それにもえのためには・・・
  今すぐおじいちゃんのところへ戻って!!


 この後、私がどれほど教室に戻りづらかったことか。









 ホームルームも終わり、生徒が保護者と帰るために大講堂へと向かう。私たちがホームルーム中、保護者はそこで説明会があったのだ。中庭は桜の淡いピンクでいっぱいだった。”いいな、今度ここでお昼ごはん食べよーっと”なんて考えている時、桜の木の下のベンチで寝ている男の子が視界に入った。あれは・・・


「藤代 綾人くん!」


 絶対そうだ、間違いない。あれは藤代くんだ!ひょっとして、これってチャンス?!私は生徒の群から外れ、ゆっくりと吸い寄せられるように彼のところへ行った。


「・・・やっぱり、きれい」


 初めて会った時もそうだった。桜の幻想的な美しさと藤代くんの不思議な魅力が合わさって、思わず見とれてしまった。今も、あの時の感覚の中に私はいる。右耳のトゥインクルがほんのりと熱を帯び始める。


「寝てるのかな、起こしちゃ悪いよね」
「いや、そんなことないと思うけど?」
「でも、すごく気持ちよさそうだし・・・」
「あら、こういうものはやったもん勝ちなのよ?」
「えーでもさ、やっぱり人間として・・・え」
「恋は当たって砕けろよ。情熱が大事!さぁv」
「もえ、ファイトだよ☆」
「え、ちょ、きゃあっ」






 ドスン☆


 信じられないことに私はアホなガーディアン二人に押された。そして恐ろしいことに、ベンチでお休み中の藤代綾人くんの上に倒れた。あまりにもとんでもなさすぎて、時が止まったかのように思える。後ろから聞こえる「まぁ、なんてドラマチックなのvv」なんて声は完全に無視して。


「・・・なんだ、これ」
「ごごごごごめんなさいーーーーーーっっっこれはちょっとした事故で」


 あああああぁーーーーーーっもう最悪だよ!!!藤代くん起きちゃったじゃんーーーーーっ。しかもこれ、どう考えても怪しい状況だよね?!あぁどうしよう!


「お前、あの時の・・・一度ならまだしも二度も人の寝込みを襲うなんて、いい度胸だな」




「ち、違うの!私、あなたを襲うつもりなんて・・・きゃあ!」
「おいっ」


 必死で弁解しようとしたせいで思わず体制を崩し、私は藤代くんを巻き込んで二人してベンチから落ちた。気が付くと今度は私が下敷きになっていた。顔全体が赤くなるのがわかる。い、いきなりこんなに急接近できるなんて!


「きゃあvやだレンどうしましょ!」
「こんな原始的な方法でも、案外うまくいくもんだね」
「もちろんよ!なんたって恋には押しの一手が肝心ですもの」
「なかなかいいアングルだね。せっかくだから写真でも撮ろうかな♪」


 私はこの時、ひとり違う世界にいた。ふわりと淡い桜の花びらが舞い散る中、恋焦がれる人とこんなに近くにいられるなんて。オキョウじゃないけど、本当にロマンチックでドラマチックぅ〜vvはぁ。このまま・・・このまま・・・。
 しかしふと真上の藤代くんの顔を見て、私は一瞬にして現実世界に引き戻された。彼はゆっくりと立ち上がると、私にこう言った。


「どういうつもりか知らねーけど、昼寝のジャマすんな」


 そう言って藤代くんはそこから去ろうとしたが、なにか思い出したかのか、ふいに立ち止まり、振り替える。


「それから、そこのデカい女とヘラい男を二度とオレに近づけるな」


 それだけ言い残して彼は行ってしまった。後には三人だけがぽつんと残った。しばらく誰も口をきかなかったが、オキョウがその沈黙を破った。


「デカい女って!ヒール脱げばあんたより小さいわよこのバカちんっ!!!」
「オ、オキョウ、落ち着いてよ!ねぇレン、なんとか言って・・・」
「ヘラい男ってねぇ・・・別に僕も好きでへらへらしてるわけじゃないんだけどな」(闇レン召還5秒前)
「うぅ・・・(げ!レン怖っ)」
「もえちゃん、ここにいましたか!」
「おじいちゃん!」


 グットタイミングでおじいちゃんが来てくれた。そういえば、おじいちゃんずっとほったらかしだったっけ。ごめんね、おじいちゃん。


「おや、オキョウさんとレンくんどうかしましたか?」
「え?!別に、なにもないよ?」
「・・・おじいちゃん、私お腹が空きましたわ♪」
「そうですか、じゃあお家に帰りましょう。すぐお夕飯の準備しますね」
「おじいちゃん、僕にも手伝わせて下さい」
「ありがとうございます。それじゃあ行きましょう。さぁ、もえちゃんも」
「う、うーん・・・」


 藤代 綾人くんに9割方嫌われたはずなのに、なぜかちょっぴり嬉しかったりするの。きっとオキョウとレンのおかげなのかな?でも1つだけ言えることがある。私に仕えるガーディアンたちは、私の王子様を好いちゃいないってこと。はぁ、こんなので本当に私の恋は実るのだろうか。先が思いやられる。