第三話
 「まずはお友達から」


 Q.好きな人に言われた印象的な一言は?
 A.「一度ならまだしも二度の人の寝込みを襲うなんて、いい度胸だな」

 Q.最後に、あなたは好きな人にどう思われてると思う?
 A.9割方うざい。









「うぅ、どう考えても無理だよぉ・・・」
 

 私はミニテーブルに見ていた雑誌と共に崩れた。その拍子にQ&Aを書き出したメモがひらりと床に落ちる。あの入学式の日以来、私は藤代くんと一言も交わしていない。それどころか目すら合っていない。頑張ってあいさつだけでもと気合いを入れたが、結局言えずじまいだったり。そんなこんなで、何の進展もないまま新学期最初の日曜日を迎えようとしている。


「見て見て見てちょうだい、もえ〜っvv」


 一人どよ〜んとした空気にひたっていた私のことなんか軽く無視して、オキョウがるんるん♪で部屋に入ってきた。見ると彼女の髪には球型のふわふわスポンジ系カーラーがかわいく巻いてある。


「じゃじゃーん☆ふわくるレディー・オキョウの登場ですわ♪」


 淡いピンクのネグリジェを身にまとい、バレリーナのようにくるりと回る。きっとおじいちゃんに巻いてもらったのだろう。鼻うた混じり軽やかにぴょんと跳んで、私に近づいてきた。


「おじいちゃんが巻いてくれたのよぅvvどぉかしら?」


「うん?いいんじゃない?」というぎこちない返事をすると同時に、私は今見ていた雑誌をそそくさとテーブルの下に隠した。しかしさすがはオキョウ。素早くテーブルの下にある私の手から雑誌を強奪。ついでに床に落ちたメモをご一緒に。


「ふんふん・・・『気になる彼はどう思ってるの?乙女の恋愛Q&A』・・・」
「違うの!そ、それはっ」


 私はオキョウから雑誌とメモを奪還しようとしたが、ひょいと軽くよけられてしまった。オキョウは私の攻撃をよけながら雑誌とメモを見比べる。そして読み終えたのだろうか、急にピタッと止まったので、私はおもいっきりオキョウにぶつかってしまった。


「いたた・・・オキョウ?」
「恋愛数学論・名誉教授の銀鱈キョーコ先生から言わせてもらうと!」
「れ、恋愛数学論?」
「(落ち込む+あーとかうーとかいう)×ネガティブ=笑顔消える=全然ステキじゃない=一生片思い!ですわ」
「は、はい!」
 

 ビシッとバシッと言われてしまい、思わずハキのいい返事をしてしまった。でもオキョウの言っていることは正しい。・・・そうとはわかっていても、それでも、うーん。
 「ふん、こんな雑誌の言うことを真に受けることなくってよ?」と言って、オキョウは雑誌を放り捨てた。ついでにメモもくちゃくちゃに丸めてゴミ箱にホールイン。


「二人とも、おじいちゃんがハーブティーを入れてくれたよ」




 ドアのノックにも気付かないくらい悩んでいたのだろうか。カップ三つをのせた花柄のお盆を片手に、レンが部屋に入ってきた。レンはストライプのパジャマを着ていた。


「あら、ちょうどよかったわvvほらもえ、お茶の時間よ」


 「ん・・・」と気のない返事をして、私はレンからカップを受取った。そしてそのまま部屋の隅の方でしゃがみこむ。もはや今さっきオキョウが言ったことも頭に入っていないだろう。おじいちゃん特性ブレンド紅茶のいい香りが鼻をくすぐる。私も、二人も何も言わない。しかし何を思ったのか、私はぽつりと言葉を発した。


「オキョウ、そのネグリジェ似合ってるよ・・・とってもかわいいし、セクシー・・・うん、レンもそのパジャマ似合ってる・・・きっ と綾人くんも似合うだろーな・・・パジャマ姿・・・」
「「も、もえ?」」
「綾人くん・・・もう、一言も話してくれないのかな・・・私、私・・・きゃ!」


 突然オキョウがわき腹をくすぐってきた。しかもその手を止めることなく私をくすぐりまくる。


「ちょ、ちょっと!きゃあもうヤダ!あはははっ・・・もうオキョウ!!」
「うふふvvもえってくすぐりに弱いのね♪ねぇ、レンも手伝ってちょうだい」
「僕も?フフフ、じゃあリクエストにお応えしてvv」


 レン、すっごい笑顔!うわ、絶対マジだよこれ!!レンの腹ぐ・・・


「きゃはははははーーーっ!イヤイヤやめてってば・・・きゃあ!」


 レンがいきなりお姫様抱っこをして、私をベッドに運びそっと下ろした。私はレンと向き合うかたちで座った。レンが優しく私の頭をなでる。


「愛しい僕らのプリンセス、笑顔を見せて」


 うわっ!な、なんかレンにドキドキしちゃってる。全然そんなんじゃないのに・・・。恐るべし、美男子パワー。


「ちょっとあなたたち?私もいることをお忘れなく」
「何を今更。もえの隣は僕がキープしたからね」
「ふふん、甘いわねレンvvこーゆーのは奪ったもん勝ちなのよ?」と言ってオキョウが私を抱き寄せる。一瞬、レンの笑顔が崩れたがさすがはスマイリー。立て直しが早い。


「さあもえ、こっちだよ」レンが素早く抱き寄せる。
「ちょっと!もえはこっちよ?!」オキョウが負けじと私の腕を掴んだ。
「ストォーーーップ!はいそこまで。もう寝るよ?」


 何だかよくわからないけど、気が付いたら三人寄り添って寝っころがっていた。仔猫が身を寄せ合って眠るみたいに。


「ありがとう。レン、オキョウ」


 私は二人に聞こえるかどうかというくらいで囁いた。明日がステキな一日になりますように、と願いを込めながらゆっくりと眠りに落ちた。









次の日は気持ちのいい日曜日になった。私が起きた時にはオキョウもレンもベッドにはいなかった。私が着替えて下へ降りていくと、二人はお店の手伝いをしているらしいが店内にはいなかった。おじいちゃんが丁寧に置物の手入れをしている。


「おはよう、おじいちゃん。何か手伝うことある?」
「おはようございます、もえちゃん。学校が休みの時くらいゆっくりして下さい」
「大丈夫大丈夫♪宿題も特にないし。それに、手伝いたいの、私」


「そうですか、ありがとうございます。それじゃあ・・・」とおじいちゃんの指示通り、私は店内の掃除を始めた。店内にはゆったりとした時間が流れている。窓から差し込む日の光が部屋に不思議な空間を演出して創り出す。いたる所に時計やオフジェ、神秘的な物が並んでいる。どれもこの辺では見かけないものばかり。それもそのはず。モンパルシェに陳列されているこのコたちはみんな・・・


「もえ!もぉ、遅くってよ?!」
「やっとお目覚めだね、プリンセス」


 戸口にジョウロを持ったオキョウと箒を持ったレンが現れた。二人とも持ってる物が持ってる物なのに、さすがは美男美女。何を持たせても似合ってしまうのが恐ろしい。


「おはよう☆オキョウ、レン」


 私は何食わぬ笑顔をしてみせた。でも本当はちょっぴりわかってたり。二人が私と少しでも一緒にいたいってこと。学校が始まってから夜くらいしかゆっくり二人と過ごす時間がなかったもんね。


「今日は何だかいいことがある気がする♪」









「ん〜のんびり〜ってゆうか、のほほ〜んだなぁ」


 お昼ごはんに使った食器を洗いながら、私はぼんやりと考えていた。オキョウとレンがいないだけでこんなにも静かだとは。・・・ってことはあの二人、相当うるさいんだね。ちょうど二人は買い物に行っているところだ。
 結局、午前中はお店の手伝いで終わってしまった。さてと、午後は何をしようかな〜。


「よぉし!洗い物完了っと・・・あれ?」


 お店のカウンターの方からおじいちゃんと・・・誰だろう、話し声が聞こえる。しかも何だか楽しそう。おじいちゃんのお友達でも来てるのかな?


「おじいちゃん、お客さん?」
「おやもえちゃん。そうなんですよ、うちの常連さんです」
「へぇー、こんにち・・・はっ?!!!」


 思わず手にしていたタオルをパサリと落としてしまった。だってあまりにも驚いたんだもん!あまりにも意外な人物があまりにも意外な場所にいるのだから。しかし驚いているのは私だけではなかった。その常連さんも驚きを隠せないご様子だったり。


「ふ、藤代綾人くん?!」
「お前は・・・あの時の!」
「おやおや、お二人ともお知り合いでしたか」


 もしも恋の神様がいるとしたら、これは神様の退屈しのぎなのかな。それとも、もし、もしも違うなら・・・期待しちゃってもいいのかな?!
 「藤代くんはコーヒー、もえちゃんは紅茶でいいですか?」とおじいちゃんはカウンターに二つカップを出した。私はそこに座らざるを得なくなった。おずおずと、藤代綾人くんの隣にお邪魔してみる。


「・・・・・・」
「・・・・・・」


 まさかこんな所で藤代くんと会うなんて思ってもみなかったから、正直何を話していいのかわからない。きまづい沈黙がしばらく流れた。でもせっかくの願ってもないチャンスなんだから!何か、なんでもいいから話かけなきゃ!


「お前、どうしてここに?」
「え?!あ、うん、ここの店長・・・私のおじいちゃんなの。ここでおじいちゃんと(オキョウとレンと)住んでるの」
「・・・・・・」


 あぁ、私なにかまずいこと言ったかな?!会話終わっちゃったよ!!ど、どうしよう・・・えーと、えーと。


「藤代くんは、モンパルシェによく来るの?」
「・・・・・・」
「(あぁ、シカトされちゃったよぉ!)お、おじいちゃんと仲良さそうだったからっ」


 「そうだな」と短く応えて、また沈黙が流れた。うぅ、カップの中の紅茶だけがむなしく減ってゆくぅ。綾人くんの私に対する心の壁は一向に減らないのに。はっ、ダメよダメよもえ!せっかくの二人きりのチャンスなんだから!!やっと、やっとまともに話できるチャンス。あの日以来・・・あ!あの日!


「そういえば!この前はごめんなさい・・・その、桜の木の下のことと、入学式の日のこと」
「・・・・・・」
「(うぅ、まだ怒ってんのかな)もう二度とあんなことはしないから・・・オキョウとレンにもちゃんと言ってあるから!」
「・・・そういえば、あの二人は?」
「あ、うん、二人なら今買い物に行ってるの!だから安心して」
「・・・・・・」


 今この場にあの二人がいなくて本当に良かった。もしも鉢合わせでもしたら大変だもんね。オキョウもレンも、あの入学式の日のことは絶対に忘れてないだろうし。案外子供っぽいとこあるんだよね、あの二人。
 私はまたまた何とかして話をつなげようと、ちらっと綾人くんを見た。うん、制服姿も似合うけど私服姿もかっこいいなぁ〜vvふと綾人くんの手の中にある物が目に入った。細長い箱はきれいにラッピングされている。誰かにプレゼントかな?


「それ、誰かにプレゼント・・・?」とおずおずと聞いてみる。
「そうだけど」
「(おぉ、さっきよりは反応が早い!)さっきおじいちゃんが言ってたけど、藤代くんってうちの常連さんなんだね」
「この店も孝一郎さんも、不思議な魅力があるから」
「(こ、孝一郎さん!!確かにうちのおじいちゃんは孝一郎さんだよ!!)・・・私も、大好きなの!モンパルシェもおじいちゃんも。何ていうか、落ち着くんだよね。ふんわりと包み込んでくれるっていうか・・・」
「オレもそう感じる」


 ふと綾人くんと目が合った。その時の綾人くんの表情は、今まで見たことない、やわらかい表情だった。ほんのりと右耳のトゥインクルが熱くなる。あれ、ちょっと、私、私・・・


「「ただいま戻りました(わ)♪おじいちゃん」」
「?!!!!!」


 最悪!!今すっごくいい感じだったのに!!お前らホントに私のガーディアンかよ!!ってゆーか空気読め!!


「お帰りなさい、オキョウさんレンく・・・」
「「あぁーーーっ!ふ、藤代 綾人ぉおおおーーーっ?!!!」」
「しまった!」


 やばいやばいよ。この二人にだけは会わせちゃいけなかった!なんとかごまかさなきゃ・・・。


「お帰り二人とも!ほら荷物もってあげるか・・・」
「ここで会ったが100年目!!覚悟なさい、藤代綾人!」
「え、ちょ、100年?!」
「わざわざ敵地に乗り込んでくるなんて、いい度胸だね。でもあんまり僕らを甘くみないほうが身のためだよ、藤代綾人」
 

 しばらく店が静まり返った。嵐の前の静けさとはまさにこのことだろう。私にはその間が永遠にすら感じられた。THE・修羅場。不安の波が押し寄せる。私はとに・・・


 カーン♪
熱久:さぁ始まりました第一回「藤代綾人争奪戦」!このふてぶてしい謎の美少年を巡る三つ巴のバトル、一体どうなるのでしょうか!!実況は私、熱久 語(あつく かたる)、解説は解 赤須(とき あかす)でお送りいたしま・・・おぉーーっと、いきなりオキョウが仕掛けてきました!”オキョウ”こと銀鱈キョーコ、その華麗な姿からは想像がつかない動きの早さ!!

解:さすがですね、彼女は。えー、でも藤代綾人も負けてませんね〜

熱久:確かに藤代綾人も間一髪でよけました!オキョウの目つきが今のアクションで変わります!おっと若月もえが動き出しました、藤代綾人を守ろうというのでしょうか?彼の腕を引っ張ってカウンターの奥へと連れていこうとしています!




解:若月もえは二人に対して攻撃する気はまったくないようですね〜。とにかく藤代綾人の安全を確保したいようです。乙女ですね〜。

熱久:さぁそんな逃げる二人を逃すまいと、レンが短く呪文を唱えた出したと思ったらあぁーーーっと!藤代綾人が、藤代綾人ががっくりと崩れましたぁーっ!!”レン”こと茶柱レント、その甘いマスクの下にはとんでもない魔物が潜んでいたぁ!!若月もえが藤代綾人をかばいます、かばいました!しかぁーし、チャンスとばかりにオキョウが二人の前に立ちはだかり、行く手を遮る!!

解:いや〜すばらしいコンビネーションですね〜。それぞれの役割を立派にこなしています。まさにスピーディーな頭脳プレイといったところでしょうか。

熱久:藤代綾人、若月もえ、ここまでなのでしょうか?!二人の少年少女の運命はいかに・・・あぁ!オキョウが、オキョウが藤代綾人をついに捕まえてしまいました!!さらに追い討ちをかけるかのように、じわりじわりと後ろからレンが近寄ってきます!なんて恐ろしいのでしょう、微笑んでいるのに、目が、目が笑ってません!!

解:確かに一見ピンチに見えますが、キーパーソンがまだ一人いるを忘れてはいけませんね〜。



 私の頭の中はパニックになっていた。やばいやばいよ、もう逃げ道がない。前にはオキョウ、後ろにはレンが・・・うっ、二人とも殺気立っててマジ怖っ!あ、殺気立ってる?殺気・・・


「覚悟はいいかい?藤代綾人」
「もう逃げられなくってよ?さぁもえ、危ないからどいてちょうだ・・・」
「れ、冷蔵庫に隠してあったオキョウのシュークリーム!あれレンが食べたんだよ?!」
「もえ、今はシュークリームの話なんかどうでも・・・え、ぼ、僕が?」
「ええそうよ!わ、私、見ちゃったの。三日前、学校から帰ってきたらレンがオキョウのシュークリームをこっそり!!」
「なんですって・・・!本当なのかしら、レン」
「そんなわけないだろ?オキョウのシュークリームに触ってもないよ」
「嘘じゃないわ本当よ!ひどい・・・私のこと、オキョウは信じてないの?!」


 私はここぞとばかりに嘘泣きをしてみせた。しかし演劇部でも何でもないので、あっさりと見破られてしまうのではと冷や冷やしながら急ピッチで次の策を考えていた。だが事は意外な方向へ転んでいく。


「違うわ!もえを信じないわけじゃないのよ、ただ・・・あぁそうね、思い当たることがなくって」
(オキョウ思考フル回転中)
「(ピ・ピ・ピ・ピーン☆)あ!ひょっとして・・・江戸の茶店”さくら屋”で、レンの分までお団子食べてしまったことの仕返しなの?!」
「江戸って・・・(さすがはガーディアン、時間のとらえ方が違う)」
「え、あれやっぱりオキョウだったんだね?!ひどいじゃないか、さくら屋っていったらおいしいお団子とかわいい看板娘のおはなちゃんで有名なんだよ?!!すごく楽しみにしてたのに・・・ちょっと縮緬問屋の六助さんに呼ばれて席を外した隙に!!」
「だ、だって!急にいなくなっちゃうんですものっ。レン、なかなか戻ってこなかったし・・・もういらないのかと思って」
「一口も口をつけてないのに残したと思うなんてっ、きみの神経を疑うよ!・・・そんな食い意地ばっかり張ってるからポドミア卿に見向きもされないんだよ」
「ちょぉーーーっと!!それとこれとは関係なくってよ?!だいいちレンに私の気になる殿方のことをとやかく言われたくないわ!あの方は女性自体に興味をお持ちでなかったのよっ。私の食い意地とはまったくもって関・係・ない・ですわ!!!ひどいわレンったら!レンこそそんなへらへらしてるから女の子にモテないのよ!!!」
「へ?!へらへらって・・・オキョウ、言っておくけど僕は別に好きでへらへらしているわけじゃないんだよ?・・・ちゃんとまわりの空気を読んでだね(ボソボソ)・・・まるで僕が何も考えてない能無しバカみたいな言い方しないでくれるかな?!僕がへらい男っていうなら、オキョウはデカい女だよ!!」
「でっ?!まぁ信じられない!レディーに向かって体のことを指摘するなんて!!デカいんじゃなくてモデル体形っていってくださるかしら、モ・デ・ル・体・形っ!!!」


「・・・・・・(二人とも綾人くんが前に言ったこと、そのまま言ってるじゃん)」と私はあきれ・・・


 ピッ☆
熱久:しばらく目を離した隙に、事態が急展開しています!どうやら若月もえの動揺心理作戦に二人がまんまとはまってしまったようです!かわいい顔して若月もえ、あなどれません!!

解:ここにきて若月もえのが一枚上手でしたね〜。相手の性格・心理状態を見抜き、巧みに考えた見事な作戦です、はい。

熱久:さぁその隙にどうする若月もえ!藤代綾人を連れて逃げるのか、それとも・・・ぅあああぁーーーーーーっと、こ、これはっ!!若月孝一郎が、二人をカウンターの裏へと誘導しているじゃありませんか!!!オキョウとレンはその様子にまったくもって気付いてきない!そのうちにみるみる二人の姿は遠ざかってゆくぅ!!若月孝一郎やりました!さすがは年の功、伊達に店長やってません!若月孝一郎、メガネの似合う60代前半!やってくれましたぁ!!!


「もえちゃん、今のうちに」 
「でもっ」
「後のこは私に任せて、今はとにかくここを出て下さい」
「・・・わかった、ありがとうおじいちゃん!」


 私は綾人くんを裏口へと誘導し、そこから二人して外へ出ていった。どこに行くとか何も考えていなかったけど、私たちは体力が続く限り走り続けた。





 気がつくと私たちはあの桜並木の続く小道を駆け抜け、野原にたどりついていた。特に打ち合わせでしたのではないけれど、不思議と二人はその場所を目指していたのだろう。そう、私と綾人くんが初めて出会った場所。


「ここまで来ればっ、大丈夫だよっ、ねっ」
「そうだなっ」


 お互い走り続けてたせいで、酸素が足りない。日頃、運動不足と感じたことはあまりないが、全速力で疾走し続けるとさすがに感じずにはいられない。
 「あ、悪い・・・」と言って綾人くんが掴んでいた私の腕を離した。今まで掴まれていたなんて全然気付かなかったせいか、今この瞬間すごくドキッとしてしまった。お店出たときは私が綾人くんを引っ張ってたのに、走ってる途中で引っ張られる方にチェンジしてたんだね。


「あ、うん・・・」


 走っている時はただひたすら逃げることしか考えてなかったけど、今の状況って、えっと、二人きり・・・?やばい、そう考えると急にドキドキしてきちゃったよぉ。
 「ありえねー」そう言って綾人くんは野原にゴロンと仰向けに寝っ転がった。桜はもうほとんど散っていて、風が緑の葉をやさしくゆらしている。うーん、やっぱり綾人くんって寝てる姿がよく似合うよね〜。なんでだろう?私は綾人くんのそばにこっそり座ろうとしたその時、


「きゃあっ」
「おいっ」
(ナイスキャッチ☆)


 私は(野原の何もないところで)つまづいて、またもや綾人くんの上に倒れそうになった・・・が、さすが綾人くん。私がこける前に起き上がって私を抱きとめてくれた。私たちは座ったまま抱き合う形になっていた。ラブvハプニング、万歳!


「(い、一度だけじゃなく二度も)ご、ご、ごめんなさいっ!!」
「・・・お前って、相当おっちょこちょいだな」
「そうか・・・も」


 私は慌てて綾人くんから身を離した。もう今や右耳のトゥインクルだけじゃなく全身が真っ赤になっているに違いない。私はもう何が何だかわからなくなってしまった。しかしそんな時に、ふとある考えが浮かび、今の勢いで言ってしまえ!と思い、つい言ってしまった。


「ふ、藤代綾人くん、私と・・・もし嫌じゃなかったら、お、お友達になって下さい!!」
「は?」
「私、ずっと、あの日からずっと、藤代くんと仲良くなりたくて・・・もっとお話したくって、ずっと思ってたの。だから、もし、藤代くんさえよくて、こんな私でもお友達になってくれるなら・・・」
「お前・・・」
「いきなりごめんね!何言ってるのかわかんないよね。私も、わかんない・・・」


 しばらく間があった。私は綾人くんのこたえが怖くて顔をちゃんと見れなかった。綾人くん、どんな表情してるかな。やっぱり、困ってるよね。


「お前さぁホント変なやつだよな、若月もえ。わかった、友達になってやるよ」
「・・・え?!」思わぬこたえに自分の耳を疑う。
「不満?」
「ううん!そんなことないっ、どうもありがとう藤代くんっ!」


 私は嬉しさのあまりまた綾人くんに抱きついてしまった。やったやったやったよぉvv綾人くんと、綾人くんとお友達!!!今までの不安や悲しみが全て吹き飛んでしまうくらい、本当に嬉しい!!


「や、やめろってば」
「あ!ご、ごめんなさ・・・」
「お待ちなさいっ!!」
「(はっ、この声は・・・!!!)」
「げっ」
「甘いひとときを邪魔して悪いけど、そこまでだよ」
「藤代綾人、あなたもえのお友達になるってことは・・・どういうことだかおわかりかしら?」


 オキョウもレンも、今やボロボロだった。オキョウはいつもきれいに巻いてある髪はぼさぼさになり、いつもきっちりしているレンの服は少し乱れていた。・・・きっと一戦交えたのだろう。でも見ようによっちゃあ、二人ともすごくセクシー。急に私はおじいちゃんのことが心配になった。


「ふ、二人とも、お願いだから落ち着いて!」
「もえとお友達になるってことは!藤代綾人っ」
「私たちともお友達になるってことですわ!藤代綾人っ」


 はい、はいいつもの無意味な決めポーズ入ります。ってゆーか二人して藤代綾人って連呼しすぎじゃない?その前にそのわけのわからない道理はなんなわけ?!わけわかんない・・・!!


「藤代くん、二人のことは気に・・・」
「一度言ったことを変えるつもりはない」
「藤代くん・・・!」


 綾人くんはさっと立ち上がり、踵を返して行ってしまった。私はただぼんやりとその後ろ姿を眺めていた。


「また明日、学校でねーっ」
「ちょっとぉ!私たちを無視するなんて100億光年早くってよ?!藤代綾人っ!!」
「まったく。次に会うのが楽しみだよ、藤代綾人」





「おはよう☆夕菜、糖子」


 今日は月曜日。一週間の始まり。私が二人にあいさつをすると、二人とも明るくあいさつを返してくれた。


「もえ、休みはどうだった?」
「うん、のんびりでき・・・う、うーん・・・うん♪」
「あら、何かいいことでもあったの?」
「んーあったかも・・・あ!」


 私は教室に入ってきた綾人くんと目があった。昨日会ったばかりなのに、やっぱりドキッとしてしまう。よぉし、元気よくあいさつしなきゃ!


「おはよう、藤代くん☆」

 お願い、昨日のことは嘘じゃないよね?!

「はよ」



 もうどうにでもしてってくらい、ときめきドキドキ☆今日はホントいい日になりそう♪



 追伸
 オキョウのシュークリーム食べたの、実は私です。ごめんね、オキョウ!そしてレン!!・・・あ、あとちょっと気になったんだけど、オキョウに見向きもしないポドミア卿って、一体どんな人だったんだろ?それにレンがモテないなんて・・・美男美女も楽じゃないね☆