「ごごごごごめんなさぁい藤代綾人ぉ!!!」

 もう7時をまわっただろうか。おじいちゃんが夕食を作って待っている頃、保健室に謝罪の叫びが響き渡る。

「私、私・・・もえのことで頭がいっぱいでして・・・あぁ、なんてことなの!」
「もういいって・・・別にたいしたことじゃな・・・」
「たいしたことじゃないですって?!肋骨が折れているのに?!!」
「・・・お願いだから大声だすなよ」

 ベッドの上で綾人くんが頭が痛いといった感じで、顔をしかめる。その脇でレンが魔法でせっせと綾人くんの治療を行っている。さらにその反対側でオキョウが涙目で必死に謝る。

「どっか痛むとこはあるかい?一応、一通り治療はしたけど・・・」
「大丈夫そうだ・・・ありがとう」
「オキョウ・・・君も少しは魔法の練習をしたらどうだい?」
「うぅ・・・」

 とにかく、綾人くんの治療が無事終わってほっとした。レンの魔法治療は太鼓判ものだとオキョウが言っているくらいだから。私は改めて今にいたる経過を思い出していた。そう、あれは・・・

「でも、まさかオキョウとレンが来るなんて・・・」

 そう、あれは大講堂から4人組みが立ち去った後。私は目の前のバラの君に驚き、思わず後ずさってしまい、バラの君が詰め寄って私の頬に触れた時のことだった。すごい勢いで綾人くんが参上。私とバラの君が無事だとわかり、バラの君に近寄ろうとした。が、その後さらにすごい勢いでオキョウとレンが駆けつける。

「それにしても、藤代綾人もずいぶんと無茶してくれたね」

 二人はバラの君が私を魔の手にかけようとしていると勘違いし、彼に向かってオキョウは美脚蹴り、レンは魔法で攻撃しようとしたその
時、

「本当にごめんなさい!!」

 突然、綾人くんが二人の前に飛び出し、バラの君をかばったのだ。レンはすぐに呪文を止めたがオキョウは出した美脚を止めることができず・・・。そして綾人くんを治療するため、保健室に来て、今に至る。

「咲、大丈夫か?」
「僕なら心配ないよ・・・綾、ありがとう」

 私は”咲”と呼ばれた人物に視線を向けた。神宮咲人。どうやら綾人くんの知り合い・・・それも、かなり親密な。それ以外のことは何もわからない。謎のベールに包まれた美少年。腕にしているあの時計は、以前綾人くんがモンパルシェで買ったものである。一体、この人は何者なんだろう。

「あなたは何者なの?って顔してるね」
「!」
「知りたければ明日、ここに来るといいよ」

 バラの君はメモを渡した。微かにバラの香りがする。私はメモを見てみた。

「生徒棟2階・・・生徒会室・・・?」










 次の日の昼休み、私は生徒会室に彼を訪ねに行った。綾人くんが一緒に行くと言ってくれたけど、急に用を押し付けられたというので私一人で行くことになった。生徒棟に入るのは初めてで少し迷ったが、なんとか辿り着くことができた。

「ここが生徒会室ね。誰かいるかな・・・失礼します」

 中に入ると女子生徒がお弁当を食べていた。あれ、この人・・・確か入学式の時に廊下にいた役員の人だよね?彼女は私に気付くとゆっくりとお弁当箱を置いて立ち上がった。

「お昼の業務は40分からですが、急用でしょうか?」
「あ、いえ、あの・・・神宮咲人さんはいますか?」
「神宮はただ今席を外していますが、何かお伝えすることはありますか?」
「いえ、別に急ぎじゃないですから。また後で・・・」
「あーお腹空いたっ!」

 私が出て行こうとしたら入口からバラの君こと神宮咲人が入ってきた。私はあやうく彼にぶつかりそうになった。

「あぁ、来てくれて嬉しいよハニー」
「昨日はどうもありがとうございましたっ。あの、これたいした物じゃないですけど・・・」
「これを僕に?嬉しいなぁ、ねぇ開けてもいいかい?」

 あれ、昨日とはずいぶん感じか違うな。昨日はどこか相手を皮肉った感じの鋭い目をしていたのに。今は無邪気な天使のよう・・・本当
にこの人、神宮咲人さんだよね?

「紅茶!しかもローズヒップだ」
「はい、昨日あなたからバラの香りがして・・・バラが好きなのかと思って」
「すごく嬉しいよ!僕バラが大好きなんだ・・・あぁ、本当にありがとう」

 本当に嬉しそうな笑顔を向けられて、私はドキッとして目を逸らした。なんてきれいな人だろう。きっと女の子にモテるんだろうなぁ。

「腹減ったぁー!」
「おや、うるさいのが戻ってきた」
「あ・・・藤代くん!」
「若月?」

 今度は知らない人となんと、綾人くんが部屋に入ってきた。ひょっとして、昼休みの用事ってやつをやってたのかな?・・・でもなんで綾人くんがここに?

「なんだ、綾人の知り合いか?こんちはっ」
「は、はじめましてっ。1年5組の若月もえです」
「1年5組!いや〜弟分がいつもお世話になってます」

お、弟分?そういえば・・・この人どっかで・・・ってゆーか誰かに似てる気がする。このノリの軽さといい、いたずらっぽい目といい。えーと・・・

「弟分・・・ですか?」
「そうそう、オレに似てるっつーかオレのが数倍いい男だけど♪」
「若月、この人は長谷川の兄貴分だよ」
「は、長谷川くん?!」
「っていっても、本当の兄弟じゃないけど。いわゆるいとこってやつ」

 兄貴分がにっと笑う。うんうんその笑顔、長谷川くんと同じ。しかしよく似たいとこだなぁ。まるで本当の兄弟みたい。

「綾、お疲れ。おかげで助かったよ。本当は雅紀一人でやらせようかと思ったんだけど・・・ふぅ、困ったものだよ。雅紀が一人じゃやだーって言うもんだから・・・」
「当たり前だっ!倉庫の残とりなんか一人ぽっちでやってみろ、昼休み終わっちまうだろっ」
「うるさいなぁ、今はそれどころじゃないんだ。さてとハニー、自己紹介が遅れたね。僕は1年7組の生徒であり・・・」

 バラの君の表情が変わる。昨日の、あの不適な笑み。髪をかき上げる仕草がすごくセクシーに感じるのは私だけだろうか。

「第87期 七星学園生徒会会長、 神宮 咲人(かみや さきと」
「同じく文化会委員長 兼 会長秘書、 葉月 玲沙(はづき れいさ)」
「同じく体育会委員長、 長谷川 雅紀(はせがわ まさき)」

 一瞬、自分の耳を疑った。せ、生徒会長?!しかも同じ学年!バラの君の正体は七星の生徒会長だったのである。そして入学式のあの日、廊下にいたさらさらストレートのめがね美人の役員さんは、文化会の委員長。さらに長谷川くんのいとこのお兄さんは体育会の委員長であったのだ。

「生徒会三役とは僕らのことだよvv」
「あ、改めて、昨日はありがとうございました」
「どういたしまして。それより・・・ハニーはもう入部するクラブは決めたのかい?」
「いえ、まだ・・・」

 「だったら♪」と彼は私に近づき、素早く肩に手をまわした。整った顔が近い。うぅ、彼の色気にやられそうっ・・・。

「生徒会役員にならないかい?」
「えっ?!」
「今ちょうど人手不足でね。それに、ハニーのようなかわいい子が入ってくれると仕事もはかどるだろうし」
「で、でもっ・・・」
「別に助けたお返しってわけじゃないけど、でも・・・」
「咲」

 後ろから綾人くんの声がし、彼はするっと身を引いた。あ、危ないとこだったわ。もう少しでバラの君の色香にやられてしまうとこだった。

「オレ飯まだだから教室に戻るけど、若月は?」
「う、うん!私も行くよ・・・あ、えっと、本当に助けていただいてありがとうございました。失礼します」

 私は綾人くんに続いて生徒会室を後にした。戻る途中、綾人くんがぼそっと言う。

「咲の言うこと、気にすんなよ。若月は自分が入りたい部に入ればいい」
「うん、大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから」

 ”咲”かぁ。結局、バラの君の正体は判明したが、綾人くんとの関係ははっきりしないままだ。ひょっとして、綾人くんも生徒会の役員なのかな。










 その後、事の全てを話すと、夕菜と糖子は相当衝撃的だったらしく、私は二人を落ち着かせるのに苦労した。

「神宮咲人って・・・名前は聞いたことあったけど、まさかもえが助けてもらったなんて!」
「神宮くんは1年生の女子だけじゃなく、他の学年にもかなり人気があるみたいね」
「すごいじゃんもえ!そんな人から生徒会にスカウトされるなんてさ」
「うん、でもきっと・・・」

 ”本気じゃない”。心のどこかでそう声がした。もちろん、あれから全然考えなかったわけじゃない。でも生徒会長ともあろう人が、こんな私を果たして本気でスカウトするだろうか。私としては、あれは社交辞令として受け止めている。それよりも、私は別の事が気になっていた。


                           ☆★☆


 放課後、掃除当番を終えて教室に戻ろうとしたが、神宮咲人のことが引っかかっていた。私の気になること、そう、綾人くんとの関係。それになぜあの日、大講堂の掃除用具入れにいたのか。その辺のことはまだちゃんと聞いていない。

「でもだからといって、あそこへ行く気はしないよねぇ・・・あ」

 バラの香りがほのかに漂っている。想いがシンクロしたのだろうか。その香りの先には資料室があった。ドアが少し開いている。私がドアに手をかけたその時、中から資料がばらばらと落ちる音がした。私は急いで中に入る。

「神宮さんっ!」
「はぁ・・・もう最悪・・・あれ、ハニー!」
「ハニーじゃないですよ、大丈夫ですか?!」と彼に駆け寄る。

 バラの君は資料の山に埋もれていた。幸い、けがはないみたいだ。彼は心配する私を見てくすりと笑った。もう、笑ってる場合じゃないでしょ。

「書類作成のための資料を取りに来たんだけど・・・まさかこうなるとは」
「どれだけ持っていこうとしたんですか?私、手伝います」
「ありがとう、優しいねハニーは。それに比べて雅紀のやつは・・・!」

 会長秘書の葉月さんが文化会会議のため手伝えず、代わりに雅紀さんに手伝ってもらおうとしたけれど、雅紀さんもハンドボール部の試合の助っ人で無理だったらしい。しょうがないから一人で取りに来たという。それにしてもこんなにもの量を一人でだなんて、無茶だよ。

「生徒会室に持っていけばいいですか?」
「うーん・・・その前にちょっと寄り道しない?」


                           ☆★☆


「ん〜やっぱり天気のいい日は屋上だよねっ」

 私はバラの君に連れられるまま、屋上に来ていた。今日は本当に天気がいい。空も青いし、お日さまの光も気持ちいい!バラの君は大きく伸びをして、手摺り越しにグラウンドを眺めている。私も隣に行き、そこからの景色を楽しんだ。
 しばらく二人はそのままでいたが、私は気になっていることを聞くなら今かな、と思いゆっくりと口を開く。

「あの、神宮さん」
「カミィでいいよ、ハニー」
「え、じゃあ・・・カミィさん、あの、聞きたいことがあ・・・」
「どうして掃除用具入れにいたのか、とか?」
「(う、お見通しね)はい」

 「ふぅ」と軽く息を吐く。何気ない仕草も、この美少年は絵になる。そのまま視線を変えることなく、彼は言う。

「綾に頼まれたんだ。ハニーに目を光らせておくようにって」
「綾・・・藤代くんに?」
「そうだよ。最近様子がおかしいし、変な嫌がらせもあるからってね」
「でも・・・どうしてカミィさんに?」

 「それはもちろん、僕は生徒会長だからね」とあっさり言われてしまった。確かに、そう言われてしまえばそれまでだけど・・・でも、何か他にある気がする。

「あの日もハニーのことを見守っていたよ。そしたら、ハニーが大講堂に行くっていうから先回りして待ってたんだ。掃除用具入れにいたのは・・・偶然かな。まさか本当にハニーが入ってくるとは思ってなかったよ」
「そうだったんだ・・・本当に助かりました。カミィさんがいなかったら、私きっと朝まであの中で泣いてたと思います」

 そうしてまた二人は風に吹かれながら景色を眺めた。しばらくしてカミィさんはその場にごろんと寝そべり、私を手招きする。私は招かれるまま隣にそっと座った。

「ねぇ、こうしたら怒る?」
「え、ちょっ・・・!」

 彼はゆっくりと私の太ももの上に頭を預けた。いわゆる膝枕ってやつだ。私は突然のことにびっくりして顔が赤くなる。しかし「少しこのままでいさせて」と言われ、私はドキドキしながらしばらくそのままでいた。やがてゆっくりと、そしてそっと語り始めた。

「綾とはね・・・小3の時に出会ったんだ。僕は転入生だったんだ。綾はその時のクラスメイトで・・・」

 彼は小さく笑う。きっと当時を思い出しているのだろう。

「ほら、僕こんなんだし、転入生の宿命というか、何というか・・・クラスでちょっと面倒なやつに目をつけられちゃってね・・・ホント、腕っ節だけは強いやつでさ」

 私は何も言わず黙って聞いていた。風が優しく髪をなでる。

「ある時、体育館裏に呼び出されちゃってさ。けんかに勝ったらランドセルを返してやるって言われて・・・困っちゃうよね、そんなこと言われても。もちろん3対1。勝てるとは思ってなかったけど・・・なんていうかな、男のプライドって言うのかな。わかってたんだけどね・・・」

 バラの君が寝返りをうつ。気持ち良さそうに、深く呼吸をする。

「ふふっ・・・ハニーはいいにおいがする。そう、僕が孤軍奮闘していたその時、どこから来たんだろうね、綾が・・・それがおかしいのなんのって、”何やってんだ、やめろっ!”って大声でこっちに突っ込んできてさ。でも綾の応援もむなしく・・・二人してそいつらにボッコボコにされたけどね」

「それでも綾は泣き言や文句一つ言わず、最後まで僕のそばにいてくれた。それ以来・・・僕らは一緒にいることが多くなって・・・中学も一緒で・・・今も、一緒にいる」

「だめだね、どうにも屋上にいると解放的になって余計なことまでしゃべってしまう」

 雲がゆっくりと流れてゆく。学校の屋上だということを忘れてしまいそうなくらい心地よい感じ。とても穏やかな気分になる。

「僕はね、綾のことが大好きなんだ・・・ハニーの気持ちと同じくらい」
「そうなんですか・・・え、同じくらい?」
「ふふふvv僕が気付いてないとでも思ったのかい?」
「・・・・・・!!」

 その言葉にドキリとする。ゆっくりと彼が仰向けになり、私はバラの君と目が合った。さっきの言葉も、今の展開も、全て不意打ち。

「ハニー、この前言ったことだけど・・・あれは冗談でもなければ社交辞令でもない。本当に僕がそう思ったことだよ」

 急に口調が真剣になる。彼のまっすぐな瞳に吸い込まれそうになる。

「僕はハニーと・・・若月もえと一緒に仕事がしたい。綾に頼まれたからとか、君が綾と仲がいいからとか、そんなことじゃない」
「カミィさん・・・」

 「さてと」と彼は私から離れ、資料を持って立ち上がった。軽く伸びをし、歩き出す。私も慌てて彼に続く。出口に向かう途中、急に立ち止まって振り返る。

「無理にとは言わないけど・・・でも、君がきてくれたら、すっごく嬉しい」

 もう、この人ずるいよ。本当にきらきらした笑顔を持っているんだから。私は何も言えなくなってしまった。

「それじゃあ、生徒会室まで運ぶの手伝ってくれる?」










「えーっ!ちょっと、もう何考えてんのっ!」

 放課後のロマンスとは逆に、その夜はかなり穏やかではなかった。

「そんなの無理!ってゆーかダメ、反対、断固阻止!!」
「もえったら、何もそこまで言わなくてもよくなくて?」
「なかなかいいアイディアだと思うけどな」

 お風呂上り3人組みはアイスティー片手に対立していた。私はタオルを握り締めわめき出す。

「だいたい、入学式の日に言ったでしょ?!なんで今更そんなこと言うのよっ」
「あのねぇもえ、ここは怒らずに落ち着いて聞いてほしい。僕らだって何も遊びでやろうとしているわけじゃないんだ。オキョウと話し合った結果、これが一番だってことになったんだ」

 嘘だ!この二人は絶対おもしろがってやるに決まってる。あの入学式の日、いや今までの行動が全てを物語っている。ここで首を縦にでも振ってごらんなさい、とんでもないことになるんだからっ。

「じゃあっ、そのベッドの上にある服(っつーか衣装)は何?!」
「それはあれですわvvもえの学校に潜り込むための・・・」
「コスプレセットとでも言うわけ?!ふん、差し当たりイケメン新任教師と美人メガネ保健医といったところかしら」

「「すごーい、大正解☆」」とのんきな声が聞こえてくる。ほら見なさい、やっぱりそうじゃない!私を護衛するとか何とかいって、結局は楽しんでるじゃない!!

「うーん・・・もえが気に入らないのであれば仕方ないわね。だったら・・・」
「そうよ、もう二人には諦めて大人しくおじいちゃんのお手伝いをするという道しか残されてないわっ!」
「謎のお嬢風 美少女 キョーコとvv」
「インテリめがね 美少年 レントの転入生コンビでいくしかないねvv」

 ズゴーン!と頭の中で何かが爆発した。もう言葉が出ない。一体何を考えているんだこいつら。冗談にも程があるだろ!だいたいその歳(推定年齢23歳)で制服ってゆーかティーンは無理だろ!もう犯罪だよ、セクハラだよこれ!!

「・・・い、いい加減にしてよね」
「もえ、私たちとても真剣よ。・・・心配なの、この前みたいなことがまたあったらと思うと」
「オキョウ・・・」
「ごめんねもえ。僕もオキョウも・・・まだこっちの世界に慣れてないのかもしれない。適切な表現というか・・・対応のしかたがわからないんだ。けれど、僕らはもえのガーディアン。親が子を心配するのと同じように、ガーディアンは主を想い、守るのが当然であり全てなんだ。やり方は間違っているかもしれないけど、この気持ちはわかってほしい」
「レン・・・」

 二人の言うことは間違ってない。オキョウもレンも、私の友達じゃないし親でもない。恋人でもなければお隣さんでもない。何でもない、二人は私のガーディアンなのだ。そのことをわかっていなかったのは私。この前の件だって、二人に相談していれば少しは違う結末が待っていたかもしれない。

「・・・ごめんね二人とも、心配させちゃって。これからは学校であったことも、なるべく話すようにするから。それと隠し事もしない。約束するよ」
「「もえ・・・」」
「ありがとうオキョウ、レン。大好きvv」
「私も、もえのこと大好きですわvv」
「僕も大好きだよ、もえvv」

 とりあえず和解したところで、さっそく生徒会のことやカミィさんのことを話した。二人は嬉しそうに私の話を聞いていた。

「・・・というわけなんだけど、正直困っちゃって」
「その”せーとかい”って、どんなお仕事をするのかしら?」
「うーん、それがいまいちわからないんだよね〜。たぶん学校の行事や部活関連のことだと思うんだけど」
「もえは入るつもりなの?」

 今まで根本的な問題から逃げていた気がする。つまり、カミィさんにスカウトされようが何しようが、要するに私がどうしたいかってことだ。今まであちこち部活を見学したが、どうしてもやりたいことが見つからなかった。だからといって生徒会にすごく魅力を感じたわけではない。むしろ魅力を感じたのは・・・

「上手くまとまらないけど・・・そのカミィさんって人、とっても不思議な魅力を持った人なの。ある時はすごく大人っぽい感じなのに・・・そうかと思えば無邪気な少年みたいに笑って・・・」
「もえはその人のこと、もっと知りたいと思うの?」
「どうだろう・・・けど、一緒にいて楽しい人かな」

 「だったら♪」と二人が顔を見合わせてにこっと笑う。すでに二人の中では答えが出ているようだ。右にオキョウ、左にレンが私を挟んで座る。

「他にやりたいことがなければ、やってもいいんじゃないかな?」
「え、でも・・・」
「”私には無理”とか、そんなつまらないことを思ってるのかしら?」
「う・・・うーん」
「無理かどうかなんてやってみなくちゃわからなくってよ?それよりも、大事なのは気持ちよ、キ・モ・チvv」
「そうそう、こういう時は”やりたい”か”やりたくない”かであり、”楽しそう”か”つまんなそう”かだよ♪」

 あと一歩。あと一歩で世界が変わる気がする。

「上手くまとまらなくても、想いの全てを叫んでみたらどうかしら?案外、相手が受け止めてくれるかもしれないわよ」










 こうと思ったら即行動!オキョウの性格が少し移ったのかもしれない。次の日、私は想いの全てをぶつけるべく生徒会の門を叩いた。「失礼します」と言い中に入るとこの前と同じ、敏腕メガネ秘書がお弁当を食べていた。

「こんにちは。あの、神宮さんはいますか?」
「あなたはあの時の・・・ちょっと待ってて」

 彼女が呼びに行こうとすると、部屋の奥の方からバラの君と長谷川兄貴分が出てきた。しかし様子が穏やかではない。

「おい咲人!お前オレのタコウインナーどこやったんだ、え?!」
「ふん、そんなの知らないね。自分で食べたんじゃないのかい?」


「咲人、お客さんよ」


「ふざけんなっ、オレが出て行くまではちゃんと二つあった、嘘じゃない!部屋には玲沙とお前しかいなかった。普通に考えて玲沙はつまみぐいだなんてそんなことしない・・・とすれば!お前しかいないだろっ。それでも知らねーっつーならその口開けてみろ!」
「なんて心の狭いやつ・・・タコさんウインナーの一つや二つ・・・まったく」


「咲人、若月さんが来・・・」


「やっぱりお前か!なんてやつだ、仮にもオレのが先輩なんだぜ?!だいたいお前はシャツのボタン開けすぎなんだよっ。第二ボタンならまだしも第三まで開けるか普通!」
「うるさいなぁ、僕は雅紀と違って美しいから許されるんだ。それに、このほうが女の子たちも喜ぶしねvvま、色気のない雅紀には無理なお話かな」


「咲・・・」


「んだとぉ?!このハレンチ高校生め!それだったらチラチラ見せてないで男らしく全開にしろっ。オラオラオラッ!」
「何すんだ!この脳みそ筋肉っ」


「会長っ!!・・・若月さんが見えています」


「(あれ、みなさん夏服だ)こ、こんにちは・・・なんかお取り込み中、すみません」
「ハニー!また来てくれたんだね、嬉しいよ」
「あの、今日はお話があって来ました。先日、カミィさんが言ってた生徒会のことなんですけど・・・」
「そのことなんだけど、この前はごめんね。僕は相当わがまま言ってたみたいだ。ハニーの気持ちも考えないで・・・」
「わ、私、生徒会に入ろうと思います!」
「だよねそうだよねぇ、いきなりあんなこと言われたら普通は断っちゃうよね・・・・・え、今何て」
「私、生徒会に入りたいです」
「・・・・・・・・・ハニー?」

 私の突然の発言にカミィさんが驚く。おそらく私の言ったことがまだ理解できてないのだろう。きょとんとして私を見つめる。やがてゆっくりと口を開く。

「ハニーが・・・生徒会に?」
「はい。私、こういうのやったことないし、お役に立てるかわかりませんが、でも、一生懸命頑張ります!だから、もしみなさんがいいって言うのなら私を生徒会に入れてください!」
「ハニー、もしこの前僕が言ったことを気にしているのならそれは・・・」
「違います。私、カミィさんと・・・神宮咲人と一緒に仕事がしたいんです。あの時、助けてくれたからとか、あなたが藤代くんと仲がいいからとか、そんなことじゃないんです」


「私、純粋にあなたに興味があるんです。あなたのこと、もっと知りたいし一緒にいたいです」


 言ってしまった。・・・我ながら少し恥ずかしい台詞だな。でもでも、これは嘘じゃない。本当に私がそう思っていることだもの。想いの全てをぶつけてしまった。バラの君はあっけにとられてしまい、しばらく沈黙が流れた。そして照れているのか、少し困った表情で話し出す。

「ハニー・・・君には敵わないよ。すごい口説き文句・・・まるでプロポーズだ」
「プ、プロポーズだなんて!!ごごごごごめんなさいっ」
「二人はどう思う?」
「そうねぇ・・・情熱的だったわ」
「何事もやる気が大事だからな。いいんじゃない?」

 「と、いうわけで・・・おめでとうハニー!」とふわりとバラの君が抱きついた。私のほうがいつもあなたの行動にドキドキです。目の前で彼が少し笑い、しっとりとした声で言う。


「ようこそ☆生徒会へ」


 こうして生徒会の一員としての学生生活が幕を開けた。この先どんなことがあるかわからないけど、この人たちとならきっと大丈夫♪